とある部屋での一悶着 - 1/3

〜はじめに〜
『白雪の朋友』組による「例の部屋」での出来事。思いっきりパロディかつノリと勢いだけのいわゆるセルフ二次創作みたいな物です。何でも許せる人向け!


 

「ほうほう、レイジも覚えがないわけか」
「……全くない」
 苦々しい顔で呟くレイジに唯一無二の親友である俺ことエスタ・ヴィアンは内心困り果てた。え、今なにしてんのかって?この部屋からの脱出方法を話し合ってるところ。

 

 目を覚ましたら見覚えのない部屋にいて、隣ではすぅすぅと穏やかな寝息を立てて寝ているレイジがいた。『相変わらずすっげー綺麗な顔してんなー』と思いながらしばらく眺めた後、ちょーっとだけ部屋を探索していたらレイジが目を覚ました。
 レイジは少し寝ぼけていたけど俺が「おはよ」って声を掛けたらめちゃくちゃ驚いた様子で身を引いた。……意外と朝は弱いタイプなのかな。

 とまぁそんなことはどうでもいい。何とかしてここから出ないと。
 いや、厳密に言うと何とかして『脱出する条件』を実行せずにここから出る方法を考えないと、だ。
 実はレイジが目を覚ます直前に見つけてしまった。――この部屋の意図が書かれた紙を。

 慌ててポケットに仕舞ったそれにはツラツラと様々なルールが書かれていたが……まぁ端的に述べると『俺とレイジが性行為を行わなければ出られない部屋』だと示していた。
 二度見どころか三度見したし、何か隠されたメッセージがあるんじゃないかと頭を捻るも俺の頭じゃ新たな解答は導けそうになかった。

 正直何かのドッキリかと疑ったがこうして『ここってどこなんだろうね』という答えが分かりきっている雑談で時間を潰してもネタバラシをされる気配は一切ない。どうしよう。もう一回寝たら都合よく家に戻れたりしないかな。

 ご丁寧に追加の条件も事細かに書かれていた。
 簡潔に述べるとどうやら俺とレイジ、どちらも怪しげな薬を飲んで……まぁそういうちょっとよろしくない事をしないといけないらしい。そうしたら出られるって書いてあるけどどういう仕組み?

『どちらも怪しい薬を飲む』って明言するあたり悪質だな。それが無ければ俺が全部飲むことだってできるのに。
 付け加えるとその怪しげな薬は、そばにある小さな机の引き出しに入っていた。小さな小瓶が二本……お互い一本ずつ飲めってことか。

 とにかくこのポケットに突っ込んだ紙は見せられないし、引き出しも開けさせるわけにはいかない。
『俺とお前が怪しげなお薬を飲んで、ちょっとエッチなことをすれば出られるみたいー』とか言おうもんなら、わりとまじで俺の命が危ぶまれる。本気でまずい。我が生涯に悔いありまくりだよ。どうすんのコレ。

 

「……もしかしたらお前は巻き込まれただけかもしれない」
「え?」
 やっべ。全然聞いてなかった。慌てて顔を上げると俺の予想に反してレイジはかなり切羽つまった表情で自身の考えを述べる。

「俺は王室と血縁関係があるから……もしかすると王室に反感を抱いている輩が閉じ込めたのかも……いちおう外ではお前と一緒にいることが多いからそれで一緒に連れてこられた、とか」
 あぁ、そっか。レイジの場合そういう考え方もできるか。いや、必死に考えてくれてるのはありがたいんだけどその見解は大ハズレだ。もっとしょうもない理由だよ。

「どうしよう……だとするとルイや、父さん母さんも危ない目にあってるかも……っ」
 涙声で顔を覆うレイジにどう声を掛けたらいいか分からず黙り込む。『早いとこ、この紙見せれば良かった』と後悔してももう遅い。完全にタイミングを見失った。

「早く出ないと……!でも下手に動いたら相手を刺激するか?クルベスに連絡もとらないと、いや、もしかしたらアイツも何かあってるかもしれないし……っ」
 レイジの細い指先がカタカタと震え始めるのを見かね、その肩を叩く。ビクッ!と大きく肩を揺らして今にも泣きそうな目で俺を見つめた。

「とりあえず落ち着けって。大丈夫、弟くんたちはきっと無事だから」
「そんなの、分かんないだろ……」
「いや……えっと、これ見て」
 涙目で睨んできたレイジにクシャクシャになった紙を渡す。
 それに視線を落とし、無言で読んだレイジは再び顔を上げた。

「……ふざけるのも大概にしろよ」
 うわ、マジギレじゃん。まぁそんな反応するのも無理はない。
 ならばと引き出しを開けてそこに入っていた怪しげなお薬+大人が使うオモチャ的な物を出していく。
「……ざっと探索した結果がこちらです」
 それを聞いたレイジの視線は何度かメモと目の前のとんでもグッズの間をさまよい、一つ大きなため息をついた。

「……レイジ?」
 俺の呼び掛けを無視してスックと立ち上がり、つかつかと扉に向かう。すると次の瞬間、扉を思いっきり蹴りつけた。

「ちょ、ちょっとレイジさん!?落ち着こ!?一旦落ち着いて!!はい深呼吸!ヒッヒッフーだよ!」
 無言でガンガンと扉を蹴り続けるレイジを止める。変に扉が歪んで出られなくなったらまじで洒落にならない。

 

 

「……チッ」
 舌打ちをしながらあぐらをかく、というイラつきを微塵も隠さないレイジは扉を睨む。
 俺だって何かの冗談だと思いたかったよ。でも俺たち以外誰もいないはずなのにちょっと離れた隙にベッドの上に新たなイケないグッズが増えてんだもん。もう認めるしかないじゃん。まじでどういう原理?

「とりあえず……どうしよっか」
「実行したからと言ってここから出られる確証はない。それを脅しに何か要求してくる可能性も十二分にある」
 俺の嘆きにレイジは早口で捲し立てる。相当気が立ってんなぁ……。

「その怪しげな薬とやらも中身が毒の可能性は捨てきれない。とにかくこんな馬鹿げたこと出来るか。バッカじゃねぇの」
 レイジはそう吐き捨てて大人のオモチャ群に一瞬視線を向けるとすぐさま目を逸らした。ていうかめちゃくちゃ数あるな。
「でも現状脱出する手立てはない……よな」
「俺はしない」
 俺のぼやきにレイジは端的に部屋の要求を拒絶する。うん、俺もできれば避けたい。

「ていうか無理だろ。そういう意図があるならもうちょっと考えてやれよ」
「だよね……俺もさすがに親友とするのは無理あるっていうか……」
 俺の嘆きに「親友じゃない」と否定した。
 なんでこんな状況でもそこは否定するの?もうちょっと柔軟にいこうよ。いや、まぁルックスは文句のつけようの無い100点満点な奴だから俺は大丈夫だけど……なに考えてんだ俺。この部屋に毒されてない?

「そもそもできるわけねぇし。男同士なんだから」
「うん……うん?」
 レイジの発言に引っ掛かりを覚える。なんかちょっと認識にズレがあるような……。
「ンだよ。だってそうだろ。その……そういう器官がないんだから」
 首を傾げる俺にレイジは少し顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。そういえばレイジって下品な話題とか全くしないな。おっと、そうじゃない。

「レイジ。えっと、男女間でするやつっていう厳密な定義じゃなければ出来ると思うんだ。え、まじで知らない?」
 何言ってんだ、という非常に冷めた目を向けられる。そんなレイジにとりあえず同性……男同士でする方法を伝えた。

 

「――っていう感じ。多分こういう意図があって俺たちは閉じ込められてるんだと……」
「……なんでお前はそんなことを知ってんだ?」
 うわぁお。まぁやっぱり気になるよね。うん。俺も同じ立場だったらおんなじ疑問を抱くよ。でも聞く?そこはソッとしておこう?
「あのね、年頃の男子って色々調べちゃうの。その流れで知っちゃっただけ」
「俺は調べないけど」
 お前はそうだろうな。てかそうじゃないとそこまで自分の容姿に無自覚にはならんわ。

「俺だって最初ビビったよ。ムリムリ、そんなんやる奴いねぇだろって」
 まぁ目の前の非常に整った容姿をお持ちの方なら……うん。こうしてまじまじと見てみるとまじでスゴイな。本当によくそういう目に遭わずにすんだなって驚くレベル。相当大事に守られてたんだろうなぁ。

 という雑談もネタが尽きてお互い黙り込む。正直言うとまじでヤらないと出られないんじゃないかって思ってきた。
「……向こうはどうしてるんだろう」
「向こう?」
「俺たちがこうしてる間、ルイたちはどうしてるのかなって……心配、させてるかも……」
 独り言のように呟いたレイジの瞳は不安の色が見て取れた。そういえばここは時計がない。もしかしたら結構長い時間滞在してんのかもしれないな。

 するとレイジは何か決心したように息を吸ったのち、そこにあった怪しげな薬を『二本とも』あおった。

「え!?ちょ、レイジ!お前なにやってんの!?」
「これ飲んでやればいいんだろ。そしたら出られる。何が入ってるか分かんないのにお前まで飲むわけには――」
「だからってお前……!あ!てかそれ!俺も飲まないといけないやつじゃん!」

 忘れてた、と叫ぶ俺にレイジの持っていた小瓶が落ちた。
 あ、こいつ勢いに任せて飲んだんだ。