窓から射し込む陽の光に微睡んでいた意識が徐々に覚醒する。
ベッドの中は温かい。ティジはそのぬくもりに包まれながら『二人で寝ていたら温かいのも当然か』とまぶたを開けた。
昨晩は雷雨に見舞われたため、一緒に寝てたティジとルイ。おそらく自分はいつものようにルイに泣き縋っていたのだろう。
たまにルイのほうが先に起きて、目を覚ました自分に「おはよう」と微笑んでくれるのだが今日は違ったらしい。
ティジは腫れた目元を擦り、間近にあるルイの顔を見つめる。
少し身動きをした程度では起きそうにない穏やかな寝顔。彼がこの城に移り住むようになってからしばらくの間は『彼が寂しくないように』と一緒に寝ることも多々あったので彼の寝顔は見慣れていた。
あったかいなぁ……。
ルイの腕に抱きすくめられたまま心の中で呟く。
実はこうして人の体温を感じられる状態で寝るのはとても安心するのだ。とはいえさすがに恥ずかしいので誰にも言えないが。
それにここまで寝入っているということはルイが自分にそれほどまで心を許しているという証拠。
家族と誰とも違う、白い頭髪と真っ赤な瞳。幼い頃からこの容姿で物珍しげな目や好奇の視線を嫌というほど向けられてきた。
でもルイは自分をそういう目で見ない。本心を言うと彼のそんな態度に非常に救われているのだ。……これも恥ずかしくて言えないな。
内心恥ずかしいやら嬉しいやらで胸がポカポカしていると、ルイの腕がより強く自分を抱き寄せた。
腰に回った腕に少々驚きはしたものの、心地よいのでそのままにしておく。ついでに言うと少しくすぐったい。
寝ている時のルイは自分をクマのぬいぐるみと勘違いしてるのか、よくこうして抱きしめてくるのだ。それもかなりしっかりと抱きしめてくるのでとても温かい。
俺もギュッてしてみようかな。そんな考えが浮かぶも『相手が眠っているのをいいことに自分が好き勝手するのは良くないか』と思いとどまる。
だから起こしてしまわないよう、安らかに眠るその頬をソッと撫でるだけにしておいた。
やっぱり落ち着く。ずっとこうしていたいなぁ。
そんなことを考えながら彼の体温を感じていたら……いつの間にか二度寝してしまっていたようだ。
◆ ◆ ◆
腕の中で何かがモゾリと動く。ルイがふと目を開けるとティジの穏やかな寝顔が真っ先に目に入った。
何故か分からないがティジの手が自分の頬に添えられている。寝相だろうか。何とも不思議な寝相だがその手のぬくもりがとても心地よいのでそのままにしておく。
寝相……いや、俺も大概だぞ。何でこんな密着してんだ。一歩間違えば唇が触れてしまう大事故が起きそうだし起こしてしまえそうな超至近距離じゃないか。
腰ほっそ……!体格もちょっと小さいし、肌は白いし何から何まで全部可愛いな……!
そう意識し始めたらすぐさま顔が熱くなるルイ。『こちらを信用して寝ている相手になんてこと考えてんだ。アホかお前は』と心の中で自分を罵倒していると、件の思い人が小さく身動ぎして目を覚ました。
ぽやっと寝ぼけまなこで見つめるティジにルイは『うわ、可愛い』という感想を抱きながら微笑む。
「おはよう。ティジ」
邪なことを考えていたなんて知られたらどうしよう。そんな心配をよそにティジはふにゃりと顔を綻ばせて「おはよう」と返した。
「弟くんとティジくん……あれでお付き合いしてないって距離感どうなってんですかね」
エスタはふと、以前行った旅行で目にした二人の寝姿を思い出して呟く。『あれ完全に恋人の距離感ですよね』という言葉は口に出さずともクルベスには伝わった。
「まぁ……少なくともティジのほうは『あれが普通』と思ってんだろ」
ルイはどう思ってるか知らんが、と付け加えるクルベス。その言い方からしてルイが悶々としているのは分かっているご様子。
ルイはティジに好意を抱いているがティジのほうはいざ知らず。
彼の恋路はいったいどうなることやら。
……まぁ優しく見守っていくとしよう。
今日も今日とて、そう心に誓う大人たちであった。
ティジとルイの信頼関係というかそんなお話。ルイはぬいぐるみとか抱きしめていると落ち着くタイプ。
一方でティジは誰かにギューってされるのが好き。というか自分の大好きな人や信頼している人と触れ合ったり一緒に過ごす時間がとっても好きという子です。