「そういやさっきの電話で好きな物とか聞いとかなくて良かったの?」
「ん?あぁ、どういう物が好きかはだいたい知ってるから大丈夫。それに好きな物を聞いたら向こうも予想できちゃうかもしれないだろ。万が一その予想が当たったりしたらつまんないから聞かないことにした」
エディの質問に自信満々で答えるジャルア。彼の父――先代国王のサフィオも人を喜ばせるタイプのサプライズをよく仕掛けるお茶目な人柄だったが、そういうところもしっかり受け継いでいるらしい。「あっと言わせてやんよ」と胸を張って言う様子からよほど自信があるらしい。そんなジャルアにエディは『今日のお出掛け、めちゃくちゃ楽しみにしてたんだなぁ』と内心微笑ましく思うのであった。
宣言通りジャルアは様々な店の商品を眺めつつも各々の好みを反映した贈り物を着々と選んでいく。もちろん合間にクルベスへの定期連絡も忘れずにおこなう。
「確かルイ君はクッキーとか好きなんだっけ」
「あぁ、クルベスがよく話してたからな。これに関しては自信がある。てなわけであの子にはコレ」
ジャルアが購入した物は数種類のクッキーを可愛らしい缶に詰め合わせた缶入りクッキー。クマの形に型抜きされたクッキーも入っており、ルイがクマのぬいぐるみを好きだということもしっかり活かしている。
「決められないからここにある物を全部くれ」というような箱入り育ちっぽい一面とか見られないかと思っていたのだが常識はしっかり備わっているらしい。
「でも意外だな。てっきりクマのぬいぐるみにするかと思ってた」
「最初はクマのぬいぐるみで有名なところのやつとかも考えたんだけどな。けどあの子にはすでに『母親から貰ったクマのぬいぐるみ』っていう一番の物があるみたいだから俺がそこに別の物を加えるのはちょっと違うかなって」
だからこっちにした、とクッキーを指す。ジャルアはそつなく言っているが彼なりに色々と考えて決めたのだろう。『喜んでくれるだろうか……好みに合わなかったらどうしよう……』と不安が表情に滲み出ているが、相手のことを想って選んだ物なのだ。きっとその想いはルイにも伝わるはず。
精算を済ませたジャルアは「さて次はティジの分だ」と先へ先へと歩いていく。その声が弾んでいる事、被っているキャスケットから覗く表情がどこか楽しげである事からプレゼント選びが楽しくてしょうがないらしい。
ちなみに本日のジャルアの服装は大きめのキャスケットを被り、上半身はシンプルなニット、下はごく一般的なテーパードパンツ。そして今は二月、冬真っ只中とあって大変寒いのでダッフルコートを着ている。それと何故か伊達メガネ。
ジャルアは国王として絶賛活動中の身であるが現在は表に顔を出していない。なのでこのような軽めの変装で問題ないとは思うがエディからすると「伊達メガネって変装にしてはベタすぎない?」とツッコミを入れたくなる。というか入れた。
だがジャルアいわく「これが意外と気付かれないんだよ。普段メガネを掛けている奴がメガネを外すと『え!?だれ!?』ってなる現象あるだろ。多分そんな感じ」だそうだ。正体がバレたら困るのはジャルアのほうなのに何とも適当な奴である。
ジャルアが被っているキャスケットは少しサイズが大きいように見受けられたのだが、デザインが気に入っているのでそのまま使っているのだとか。加えてダッフルコートも少しばかり袖が余っているので普段よりも幾分か幼い印象を受けてしまう。
先ほども店員から「親子……いや、兄弟でお出かけかな?」というようなあたたかい視線を受けた。否定するのも面倒なのでそのままにしておいたが。
ジャルアとエディが並んでいる姿は、歳の離れた兄弟あるいは親戚のお兄さんとお買い物、という様子に見えないこともない。誰も『学生時代から仲良くしてる、二十年来の友人』などとは思わないだろう。仮にジャルアがそれを言ったところで「冗談がお上手」と微笑まれて終わるだけである。
余談はさておき。お次はティジへのプレゼントだ。
「その様子だとティジ君の分は事前に決めてたって感じ?」
目的の店まで一直線。そして目当ての商品を見つけると迷うことなく「こちらを一点お願いします」と購入したジャルアにエディが問いかける。
「ティジの分は絶対コレって決めてたんだ。あの子、このお菓子のモチーフになっている物語が大好きで。父上にもよく読んでもらってたみたいでな」
ジャルアが言う物語とはこの国では大変有名なとあるお伽話のことらしい。男の子が妖精と一緒に大冒険をするのだとか。そしてティジに贈るこのチョコレートはそのお伽話をイメージして作られたのだそう。箱もお伽話の本をモチーフにしている小洒落た装飾となっている。なるほど。読書好きでもあるティジには喜ばれること間違いなしだ。
ティジへのプレゼントを無事に確保できたジャルアは安堵の息を洩らしながら次のプレゼントを探しに向かう。その道中もチョコレートの量り売りを見かけて「ティジはこういうのすごく喜んでやるだろうな。あの子も一緒に行けたらなぁ……」と城でお留守をしている我が子へと思いを馳せていた。
ティジの双子の妹であるサクラには各国の名産の果物を使用したパウンドケーキを選ぶ。一切れずつ計五種類のパウンドケーキの詰め合わせとなっており「これをきっかけに俺が訪れた国の話とか話したりして会話の糸口に出来ないかな……」と思案していた。
そして彼の妻――ユリアにはチョコレートで出来た花束だ。しかも花びらまで精巧に作られており、その華やかな見た目には見た目に花にそれほど関心が無いエディでも感嘆の息を洩らしたほどだ。
「それにしても感謝の日に花の贈り物ってキザだな」
「本物の花束じゃないからまだそこまでキザじゃないだろ」
だが少しは気取った物を選んだと思っているようでジャルアは耳を赤くしていた。彼にしては珍しい。花が好きだという妻へのプレゼントに相当悩んだのであろうことを思うと『可愛いやつめ』と微笑ましい気持ちになる。
「クルベスにはこんな感じでいいか」
クルベスにはコーヒー豆をプレゼントすることにした。コーヒー豆をプレゼントするとなると苦味やら酸味やら炒り具合など選択肢が非常に多いため、初心者はかなり頭を悩ませそうな代物だ。かくいうエディも父親にコーヒー豆を贈ろうとしたが、こちらを威圧するように並ぶコーヒー豆のディスプレイに圧倒されて撤退した経験がある。
だがジャルアはズラリと陳列されたコーヒー豆に圧倒されることなく「ふむ」とひとつ頷くとさっさと二種類の豆を選び、購入した。豆の量もそれぞれ一週間で飲み切れる程度で、プレゼントには最適な量である。
「よくそんなにすぐ選べるな。もうちょい悩むかと思ってたけど」
「まぁあいつがどんな系統が好きか知ってるし。それ知ってたらそこまで難しくねぇよ」
ジャルアは何でもないように言うがコーヒーの好みを熟知しているのは結構凄い事なのではないかと思う。長年の付き合いは伊達ではないということか。
「あとこのコーヒーのお供になりそうな物も欲しいんだが……」
「お、もしかしてそれは悩んでる感じ?じゃあ喜んで助太刀しちゃうぞ、我が友よ」
「助かる。我が友」
エディのおふざけにジャルアもノリながらエディのあとについていった。
はてさて、エディに連れられてやって来たのは洒落たスイーツショップ。「感謝の日だからなー。やっぱしこういうお菓子でしょ」とエディはにこやかに語る。
「クルベスのプレゼントとか関係無しに自分用で欲しくなるな。……お、これとか美味しそう」
ジャルアが興味を示したのはラムレーズンにチョコレートをまとわせたお菓子。「なになに……」その商品説明を確認したエディは微妙な顔をした。
「クルベスには良いと思うけど……お前はダメだな」
「俺だってこれぐらいは別にいいだろ」
「ダメな物はダメ。しかもこれチョコレートにももれなく酒ぶち込んでるみたいだからクルベス君フィルターに絶対引っかかるやつだろ」
ともかく、とため息を吐く。
「俺は今日クルベスからお前のこと頼まれてんの。お前に何かあったら俺がタダじゃ済まないってわけ。ところでクルベスへのプレゼントだけどこのラムボールってやつも良くない?」
「見た目も可愛らしくて良いな。原材料の中で酒が一番多く含まれてるしアルコール度数がとんでもない事になってるけど。あー……でもこれだけ凄いやつだと俺は買えないかも。店員に止められる可能性がある」
「じゃあ俺からはそれで、お前はさっきのラムレーズンにするってのはどうだ?たぶんこっちは買えるだろ」
エディの提案にジャルアは「そうだな」と先ほどのラムレーズンのチョコを買い求める。それを傍目にエディは「でもあれ全部食べたぐらいじゃクルベスは酔わないよなぁ……」と呟くと、ブランデーケーキを追加購入するのであった。