「あー楽しかった。こんなに出かけたのは久しぶりだ」
「ご満足いただけたようで何より」
一通り買い物を終えたジャルアとエディは、最後にエディたっての提案でカフェに立ち寄ることにした。
「ところでさ、クルベスっていまどんな感じ?大丈夫そう?」
「それがカフェに寄った目的か」
「まぁ……セヴァ君たちがあんな事になってからまだ一年も経ってないし。普段は元気そうだけど、あいつの事だから相当無理してんじゃねぇのかなー、てか無理してるんだろうなーっと」
だがそれをクルベス本人に聞いても適当にかわされるか、ルイの調子を聞かされるだけだろう。だから彼と接触機会も多く、また気心も知れた仲であるジャルアに聞いてしまおうという算段だ。
「まぁ……色々キツイものはあるだろうけど、今はルイ君がいるから頑張れるって感じだな。それはそれで心配だけど」
復讐に取り憑かれるよりはマシだ、という言葉は心の中に仕舞っておいた。エディも同じ事を懸念していたが『ジャルアがまだこのように余裕を持っているうちは大丈夫か』と結論づけた。
「じゃあこの際だから俺からも一つご相談。クルベスの手前だから言えなかったんだけど……」
「おう、なになにどうした?クルベスには言えないって余程じゃん」
前のめりで食いつくエディにジャルアはもったいぶって「あのさ」と自身の顔を指す。
「ルイ君と打ち解けられてない原因って俺が『この姿』だからって事はないか?なんと言うか……ルイ君が気味悪がってるって可能性」
「あー……それは……クルベスの前じゃ言えないな」
ジャルアの発言に苦笑いで返すエディ。そんな事をクルベスの前で言ってしまえば奴は確実に自身を責める。「お前がそうなった原因は元はといえば俺が……」とか「お前は悪くない。俺のせいだ」などと言ってウジウジモードのクルベス君になってしまう。
「だってルイ君のお兄さんって確か15か14かそこら辺の歳だったよな。どう見てもそれと同じくらいの歳って見た目なのにティジの父親だって言ってんだぞ。ビビる要素しかなくない?」
ジャルアの懸念ももっともだ。ティジとは兄弟だと説明されたほうがまだ納得できる。だがそんなしょうもない嘘をついてもややこしい事にしかならないので正直に「親子だ」と言った。
「ルイ君にはお前がそういう感じになってる事について何か話してんだっけ」
「あぁ、前にクルベスに聞いたら『ちょっと昔に色々あってあんな感じ』って具合に話したんだと」
「くっそ雑な説明だな」
エディのツッコミにジャルアは「それに関しては俺も思った」と頷く。
「そりゃ言えるわけないか。だってまだ気にしてんだろ?」
「まぁ……この間うっかり腹の傷を見られたんだが顔真っ青にしてぶっ倒れそうになってたな」
「うわぁ、相当だな……」
クルベスを知っている人間は彼が弱っている姿などあまり想像できないだろう。実際ちょっとやそっとの事では動じない奴ではあるのだが、ジャルアの件ともなるとあいつを包んでいる気丈なガワは途端に崩れる。それはもう完膚なきまでにボロボロに崩れ去ってしまう。
これまでだって大変危うかったというのに、そこへセヴァたち一家を失う事件も起きてしまった。彼の心の支えの一人であったセヴァがあんな理不尽な死を遂げてしまったのだ。これで心配するなというほうが無理がある。
「まぁルイ君についてはお前の見た目がどうこうってわけじゃないと思うぞ。あの事件からしばらくの間はクルベス以外の大人は怖がってた状態だったわけだし。その名残で今も人とどう関わったらいいか分からなくなってるって感じなんじゃないか」
入院中はもちろん、城に来てからもしばらくの間は四六時中一緒だったと聞いている。クルベス自身もルイがそばにいてくれたほうが安心するからそれも良しとしていたのだろうが。
ふと病院でルイが目を覚ますのをただひたすら待っていた時のクルベスの姿を思い出す。あの時のクルベスはろくに睡眠もとらず、病室に入って来た自分をルイたち一家を襲った犯罪者と思い、拳銃を向けようとした。当然ながら拳銃は病院には黙って持ち込んだ物だ。あの時のクルベスはとても見ていられなかった。
「……ともかく。お前の事を怖がってる感じじゃなかったら大丈夫だろ」
「そうだな。焦らないで接していくか」
ジャルアが「まずは今日買ったプレゼントで……」と意気込んでいると彼の携帯電話が鳴る。エディが「お、あいつの方から掛けてくるとは珍しい」と呟くのを横目にジャルアは電話を取った。
「もしもーし」
『今どこだ』
「いまー?買い物は一通り終わってエディとカフェでくっちゃべってる。ほら、お前が前にティジたちと出かけた時に寄ったらしいカフェ」
ジャルアは電話越しにも伝わるクルベスの気迫にたじろぐことなく応える。それを聞くなり、電話の向こうから深いため息が聞こえて来た。
『じゃあ何も無いんだな?』
「あー……もしかしてもう30分経ってた?」
『2分過ぎた』
なんて頭の固い奴、と普通の人なら思うだろうがジャルアは現国王という大変な立場であるのでこれぐらい厳しくされても仕方がない。なので「悪い。うっかりしてた」とちゃんと謝った。
『もう夕方だ。そろそろ帰ってきなさい』
「えー、門限早くない?パパってば厳しいー」
軽口を叩くエディにクルベスが『誰がパパだ』と疲れた息を吐く。今日だけで一年分のため息を吐いたのではなかろうか。
「しょうがない。過保護なパパが心配してることだし帰ってやるとするか」
「だな。エディと一緒にじーっくり考えたから楽しみにしてろよー」
『……変な物買ってないだろうな?』
「酒を少々」
『料理のレシピみたいに言うな』
エディは「少々」と言ったが信用できない。こういう時は悪ノリしてとんでもないアルコール度数の物を買っている可能性がある。この男はそういう奴だ。
「ティジはどうしてる?」
『お昼寝してそのまま寝てる。起こそうか?』
「いや、もう少し寝かしておいてあげてくれ。寝る子は育つっていうし」
夢路を辿っている我が子の姿を思い浮かべ、そして今日買ったプレゼントを見遣る。これを渡した時、彼らがどんな顔をしてくれるか、喜んでくれるだろうかと今から楽しみで仕方がない。
「それならこのバゲットサンドを食い終わり次第そっち戻るわ」
『しっかり満喫してんな』
「おかげさまで。じゃあお前が倒れる前に帰るよ」
ジャルアに茶化されてクルベスは『誰が倒れるか』と言うがこれ以上ジャルアの帰りが遅くなれば心労で倒れる可能性はある。それから二言三言話し「じゃあまた後でな」と通話を切った。
「それじゃあぼちぼち帰るか。いやー、あいつ驚くかな。どんな反応するか楽しみ」
クルベスへのプレゼントが入った紙袋を引っ提げ、いたずらっぽく笑うエディ。そんな彼にジャルアも相槌を打ちながら、自分の荷物をチラリと覗く。
クルベスに、と買ったラムレーズンのチョコ。その隣には質素なデザインの小箱も一緒に並んでいた。
実は言うとジャルアはエディの分もしっかりプレゼントを買っていた。クルベスへのプレゼントを買う際にエディがブランデーケーキとやらを追加で購入していた隙にこっそり買っておいたのだ。
選んだのは塩や胡椒、ハーブを効かせたクッキー。酒のつまみにおすすめらしい。酒好きのこいつにはもってこいの品だ。
いや、エディは酒好きというよりは誰かと一緒に飲んで騒ぐのが好きという方向か。まぁどっちにしろ酒を楽しんで飲んでる奴なので問題ないだろう。
さて、こいつはどんな風に渡してやろうか。あぁ、何だか楽しくなってきた。何を贈るか考える時間もさることながら、どうやって渡すかと考える事も楽しくて仕方がない。気を緩めたら表情にでてしまいそうだ。
冬の澄んだ空はすっかり夕陽に染まっている。その空の下でエディと共に帰路につくジャルアは密かに心を踊らせるのであった。
ティジの父親ジャルアさんが主体のお話。ティジたちが8歳の出来事です。
私用で城の外からは滅多に出られないのでいつになくはしゃいでおります。足取りもどことなく軽やか。そんな様子を二十年来のご友人であるエディさんは「楽しそうだなー」とあたたかい目で見守っている。
余談ですがジャルアさんがエディさんとクルベスさんのお二人と一緒に歩いた時、「歩きやすいな」と思うのはクルベスさんのほう。ジャルアさんとクルベスさんは凄まじい身長差があるけれど、そこはクルベスさんが歩幅や歩く速度を調整している。
それを見ていたエディさんが「いっそのことジャルアを抱えながら歩くっていうのはどうだ?」と(冗談で)提案すると割と真剣に考えたりした。いわく「連れ去られたりする心配が無いからな。常に見える位置にいるっていう安心感が得られるのも捨てがたい」とのこと。
でも結局「両手が塞がっているのはちょっとなぁ……咄嗟に動けないのはだいぶ痛い。それこそナイフを持った輩が襲ってきたら即座に取り押さえないと危ないし」って理由でナシになりました。