28.衛兵はかく語りき-9

 ある日の昼下がり、ルイは廊下を何とはなしに歩いていた。その日は特に予定のない日で、次の授業の予習を終わらせて息抜きに外の風にあたりにいった。
 いつもなら中庭の庭園に赴くのだけどそんな気分にはなれない。確かあそこにも少し座れる場所があったはずだ、とこの間案内してもらった詰所近くのガーデンスペースを訪れた。あの時は気づかなかったけど小さな噴水もある。詰所の近くだというのに和やかな雰囲気に包まれたそこに少しホッと息をついた。

 

 一年前の惨劇以降、あまり心が休まらない。あの直後は伯父に泣いて縋った。なんで、どうしてって。彼にだって分かるはずないのに。
 でもあの日、あの場でティジの母を手にかけたのが誰なのかってことは自分でも分かっていた。だってあの目は、自分を呼んだあの声は、間違いなく兄のものだった。でも信じられなくて。ずっと、ずっと伯父に自分の中のぐちゃぐちゃになった感情をぶつけた。
 そんな赤子のように泣きじゃくる自分に伯父は静かに寄り添ってくれた。

 それからは話し合ってティジの記憶を書き換えることを決めた。そうするしかなかった。……もう、ティジの心はボロボロになっていたから。
 雷の日のように泣きながら、ずっと何かに謝り続けて、震えて、全てを恐れていた。『少しでも落ち着いてほしい』と手を握ろうとしたら振り払われてしまいそれも叶わなかった。それどころかティジ自身なぜそうしてしまったのか分からない様子でひどくショックを受けて、今度は自分に謝り始める始末だ。
 そばにいても、何もできない自分がとても情けなかった。いや、何よりもこんな状態にさせてしまったのは自分のせいなんだって思い知らされて。
 だってそうだ。五年前、自分が勝手に玄関を開けなければ両親も兄もいなくならなかった。ティジの母が殺されることもなかった。
それなのに、ティジから母を奪ったというのに。自分は伯父に縋って。

 

 伯父も苦しいはずなのにただ黙ってそばにいてくれて、そのことでさらに罪悪感に苛まれた。
 後悔、悲しみ、自己嫌悪に押し潰されそうな日々の中、あの人が現れた。
 最初は誰かと思っていたけど、その口から語られる思い出に、底抜けに明るい声に、あたたかい瞳に、自身の奥底に仕舞いこんでいた在りし日々がよみがえった。
 かつての日常を思い出すのはすごく苦しくて、だけど無かったことにはしたくないかけがえのない思い出たちだった。

 このまま『あぁそんなこともあったな』と思えたらよかったけど、そうはいかない。懐かしそうに話すあの人から兄さんを奪ったのは自分だ。あんなに仲良くして、記憶の中の兄さんも楽しそうにしていて……それらを全て壊したのは、紛れもない自分。
 本当はもっとあの頃みたいに素直に接したかった。昔みたいにいろんな話をして「じゃあまた明日」って笑って言えたら。でも自分にそんな資格はない。

 

 分からない。どうしたらいいのだろう。ぜんぶぜんぶ、俺のせいで失くしてしまった。
 ぐるぐるとどす黒い感情に呑まれそうになり、視界がどろりと溶けていく。
 ダメだ、外なのに。泣いちゃいけない。人に見られる。抑えないと。ティジやクルベスに心配させてしまう。
 とにかく自分の部屋に戻らなければ、と思うも体が言うことをきかない。体を丸めて、歯を食い縛ることしかできない。
 泣くな。ダメだ。なんで、どうして――

「弟くん大丈夫!?」
 底抜けに明るい、でもどこか焦りをにじませた声色に顔を上げる。その金色の髪が陽光を受けてキラキラと輝いているように見えた。

「気分悪い?とりあえず深呼吸して。大丈夫、怖くないから」
「なん、で……っ」
 どうしてこんな時に限って来るのだろう。今いちばん顔を合わせられないというのに。必死に堪えていたものが両の目からボロボロとこぼれ始める。
「わゎっ……!場所変えたほうがいいかな。ちょっとじっとしててね」
 そう言うと息を吸って俺を抱えあげた。突然の浮遊感と揺れに、目に溜まっていた水滴が地面に落ちた。グラグラと安定性はなかったものの、しきりに「大丈夫」と声を掛けられると呼吸が落ち着いていく気がした。

 

 ここに配属されてから一週間。弟くんの態度はぎこちないままだった。『もしかしてウザ絡みしちゃってるかな。そういうノリが苦手になっちゃうお年頃だったらどうしよう……』とか考えてたら、なんと偶然にも弟くんの姿を見つけた。
 声を掛けようとして『いや、ソッとしておいたほうがいいかも』と思って上げかけた手を下ろしたが次の瞬間なんだか苦しそうにうずくまるのが見えて咄嗟に駆け寄った。
 ひどく青ざめた顔。もしかしたら事件の記憶がフラッシュバックしてパニックを起こしているのかもしれない。医者じゃないからこういう時どう対処したらいいか分からないけど……とにかくこちらの動揺を悟らせちゃいけない。そしたらもっとひどくなる可能性がある。

 すると弟くんの瞳からせきをきったように涙が溢れだす。なにが原因で泣き始めてしまったのか分からないけどとにかく場所を移したほうがいい。ここだと人目を引いてしまう。

 こんな状態の弟くんを歩かせるのは酷だと思い、その体を持ち上げた。こういう時おとぎ話みたいなお姫様抱っことかできたら格好いいんだろうけど流石に無理だ。なので普通に真正面から抱え上げる方向にした。正直言うとめちゃくちゃしんどい。『もう少し鍛えればよかった』と内心後悔しながら、泣き続ける弟くんを運んだ。

 

「弟くん、着いたよ」
 弟くんの部屋に運び込み、ベッドに座らせる。とりあえずここなら人に見られる心配もないかなと思ったのだけど、そもそも勝手に入ってよかったのだろうか。ここよりクルベスさんのとこに行かせたほうが……いや、もうつれてっちゃったもんはしょうがない。あと俺の腕も限界だ。
 そういえば場所は知ってたけど中に入るのは初めてだ。まぁ今はゆっくり見ている状況じゃないけど。
「弟くん、大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫。怖くないよ」
 隣に座り、苦しげに涙を流す弟くんの背中を擦っていると体を押し返された。
「あ……ごめん。怖がらせちゃったね」
 五年前の事件直後はそれはもうひどい状態だったと聞いた。もしかすると今もそれに苦しめられているのかもしれない。俺を遠ざけようとする弟くんの手は震えていた。

「違う……怖いわけじゃ……ない……」
「気ぃ遣わなくていいんだよ。無理しないで」
 事実、弟くんの涙は止まらないまま。何かを堪えるように唇を噛む姿は見ていて心が引き裂かれそうだった。こんな状態になるほど怖い思いをしたのだ。これ以上、弟くんを苦しめたくはない。
「ちがう……ちがうっ!あなたが怖いんじゃない!俺が……俺の……っ」
 それ以上言葉を発することはなく、声を押し殺して泣き続ける。その手は、俺を突き放そうとする手はぐしゃりと俺の服を握りしめた。その手に弟くんの感情が込められているような気がした。

 

「弟くん。俺が衛兵になったワケ、覚えてる?」
 俺の問いかけに返事はなく、なおも涙を流し続ける。
「俺ね、ずーっと後悔してた。何にもできなかったって。弟くんや……レイジのこと守れなかった。どうしたらいいのか分からなくて沢山考えて……何もできなかった分、誰かを守ればいいのかなって思ったから衛兵になったんだ。俺、頭良くないからちょっとおかしな考え方しちゃってるかもしれないけど、俺にできることってもうそれぐらいしかないって思ったんだ」
 何かしないと、あの日感じた絶望に追い付かれないよう全力で走っていかなければ。追い付かれたらもう二度と立ち上がれない、と焦燥感に駆られる毎日だった。

「手違いでこっちに来ちゃった時はやらかしちゃったなって思ったけど、そのおかげで弟くんとまたこうして会えた。本当にびっくりしたし……何より嬉しかった。もう二度と会えないって思ってたから」
 強く握られた手に触れる。振り払われることはなかった。
「ねぇ、弟くん。俺じゃあ何の力にもなれないのかもしれない。弟くんが一番苦しい時に一緒にいられなかったから。それでも、弟くんの苦しい気持ちを少しでも肩代わりしたいんだ。もし何か我慢しているなら話してくれると嬉しいな」
 弟くんの指先は氷のように冷えきっていた。その手を優しくほどき、両の手でそっと包み込んだ。

 

「……れのせい」
 弟くんは自分の犯した罪をさらけ出すようにたどたどしく、唇を動かす。
「俺の……せいなんです……何もかも、みんなから奪った……クルベスから、ティジから……あなたからも……!」
「俺から?俺は何も――」
「兄さんが!!」
 君に奪われたと思ってない、と言う前に絹を裂くような声で遮られる。
「兄さんはあなたと話してる時ずっと楽しそうだった!ずっと、ずっと俺に見せるものとは違う、本当に兄さん自身が楽しそうで、嬉しそうで……!そんなあなたたちを見るのが好きだった!それなのに、それなのに……っ!」
 レイジは俺にしょっちゅう冷たい態度とってたけど弟くんからはそう見えたのか。いや、レイジをずっとそばで見ていた弟くんだからこそそう見えた、ということか。

「あなたと話す資格なんて俺にはない。あなたとだけじゃない、ティジにもクルベスにも……」
 ずっと抑えていた物を吐き出すかのように、それは涙と共に止めどなく彼の口から溢れていく。
「クルベスは、全部一人で抱えようとしてる……っ、五年前からずっと、俺を心配させないように何にも言わない、俺はその強さに甘えてばかりで……でもそれがきっとあの人を余計に苦しませてる……!けどどうしたらいいか分からないんだ!元はと言えば俺が原因なのに、どのツラ下げてあの人を気遣えばいい!?」
 時折咳き込みながら懺悔の言葉は止まらない。

「ティジにも救われたのに、ティジのおかげで俺もここにいていいんだって思えるようになったのに!俺はそれを裏切るようなことをした!ティジはユリアさんのこと大好きだったのに、目の前で亡くして……俺のせいであんなボロボロになった……!」
「弟くん、それは違うよ」
 自身を責めるのを止めようとするが弟くんは首を振る。

「違わない、だって、俺があのとき勝手に出なければ、兄さんもいなくならなかった!そしたらユリアさんだって今も……っ」
「五年前のやつは凶器を持ってたんでしょ?きっと誰が出ても同じことになってたし、出なかったとしても無理やり押し入ったかもしれない。悪いのは犯人。弟くんは悪くないよ」
 おそらくクルベスさんから何度も言われていることだろうけど、俺が言うことでまた意味を持つかもしれない。

「それにティジ君は弟くんのせいでボロボロになったんじゃない。人には受け止めきれない物があるから、それでいっぱいいっぱいになっちゃったんだよ」
「でもそうさせたのは……」
「違う。弟くんは関係ない。弟くんが直接傷つけたんじゃないでしょ?」
 そうすることがまるで罪のように恐る恐る頷く。
 でも本当に君は何も悪くないんだ。ティジ君が一年前の事件直後どんな状態になったのかはクルベスさんから聞いた。ティジ君がああなったのは弟くんのせいじゃない。

 

 弟くんの目を真正面から見据え、確固たる意思を持って告げる。
「何より、俺はレイジが人を殺すようなやつだとは思えない。他人を傷つけるやつじゃない。俺はそう信じてる」
 それに弟くんは息を詰まらせ、居たたまれない様子で目を逸らした。
「でも見たんだ。あれは兄さんだった……クルベスも何も言わない。兄さんのことを何にも言わない。もしかしたらクルベスは兄さんのことを見限っているのかも……」
「それだけは絶対に無い。断言できるよ」
 なんで、と言葉を漏らす弟くんに笑って答える。

「あの人まだあのペン使ってたから」
「ペン……?」
 それはもう何年も使われているとは思えないほどに綺麗に手入れされていた。
「覚えてるかな。前にえーっと、弟くんが6歳の時か。レイジがクルベスさんにお誕生日プレゼントをあげたこと。その時にあげたペンを今も使ってたんだ」
 紺色の軸のペン。確か芯は入れ替えられる物だったはず。あの時プレゼントを買った時に見せたレイジの微笑は目に焼き付いている。

「クルベスさんは今もレイジのことを大切に想ってるんだよ」
 今はきっと弟くんのことを考えて話題に出さないだけ。弟くんの気持ちが落ち着いたら多分話してくれるようになるんじゃないかな。「それに」と次いで言葉を出す。

「ティジ君がいっぱいいっぱいになっちゃった時、弟くんがそばにいることは嫌がられなかったんだよね?それなら弟くんがそばにいることはティジ君にとって、きっと意味があることなんだよ。少なくとも俺が見る限り、今のティジ君も弟くんといる時はすごく楽しそうにしてるよ。この間ここを案内してもらった時も仲良さそうにしてたし」
 事件直後のティジ君は自分に近づく人間は誰であろうと拒絶してしまう状態だったらしい。本人もどうしてそんな反応してしまうのか分からず余計に苦しんで……でも弟くんだけは、触れることは拒んだもののそばにいることはできたと聞かされた。多分ティジ君にとって弟くんはそれだけ信頼を寄せている子だったんだ。

 

「弟くんと一緒にいたいからクルベスさんもジャルアさんも色々頑張ったみたい。俺はそこにいなかったから何もできなかったけど……俺は今の弟くんと一緒にいたい。五年前も一年前も何にもできなかったから。今度こそ、守りたいんだ」
 俺が衛兵を志した理由はその後悔が始まりだから。
「あなたに守られる資格ない……それに何にも守られることなんて……」
 俺なんか、と瞳から伝い落ちる雫を指先で拭う。
「とりあえず弟くんを責めるその声から守らせてほしいな。弟くんの心がいっぱいいっぱいになった時……ううん、そうじゃない何でもないことでも俺にお話して。ほら、クルベスさんより年が近い俺のほうが話しやすいこともあるかもしれない。こうして話したら意外と軽くなることってあるんだよ。レイジもそうだったし」
「兄さんが……?」
 意外そうにする様子から『レイジのやつ、やっぱり弟くんには話してなかったんだな』と思った。

「うん。レイジは自分からは何も言おうとしないけどそこにクルベスさんが助け舟を出してくれたりしてね。で、それについて俺からグイグイいくと向こうも根負けして話すってわけ。弟くんの何でもない一言にも助けられたりしたなぁ。弟くんが良ければその時のことも話すよ。多分レイジにはすっごい怒られると思うけど」
 弟くんの前では頼れる兄でいようとするあいつのことだ。その場にいたら問答無用で口を塞がれるだろう。

「話すこと、伝えることはとっても大事なことなんだ。言葉にしなきゃ伝わらないことって思った以上に沢山ある」
 目の前にいるのは弟くんだが、それはかつての自分に向けた言葉でもあった。
 少なくとも俺は後悔している。五年前のあの日、ちゃんと言えばよかった。お前らと一緒にいるほうが楽しいって。

 

「俺は弟くんの……お兄さんみたいな存在になれたらいいなって思ってる。さすがに本物の兄には負けるけど。頼れて甘えられる、勉強……はできないや。まぁ、ある程度色々教えてあげられるもう一人のお兄さんみたいに思ってくれたら嬉しいな」
 押し付けがましいだろうか。でも、今の俺の気持ちはこうとしか言い様がない。まっすぐ素直な気持ちを伝えたいんだ。
「……俺、いっぱい困らせるかも……しれない……」
「困らされてなんぼだよ。俺一人っ子だしそういうのってちょっと憧れてたから全然大丈夫」
 実は言うとレイジと弟くんのやり取りは見ていて少し羨ましかったんだ、と照れながら笑う。

「もしまた、俺のせいで何かあったら……あなたが怪我するかもしれない」
 カタカタと震え出すその手を今一度優しく握った。
「言っとくけど俺は衛兵だよ?衛兵になるためにまぁまぁ鍛えたから自分の身ぐらいは守れるし、有事の際の対処法も心得てるつもり。あといざとなったら弟くんを抱えて逃げることもできるからね」
 今日みたいに、と冗談っぽく笑いながら付け加える。まぁそんな日が来ないことを願うけど。あと長時間運ぶのは無理そうなのでもう少し鍛えておかないといけないな。格好つかないから弟くんには見えないところで。
「ほら、俺いろいろできるでしょ。だから大丈夫」
 震えの止まった手は俺の手の熱によって、最初に感じた冷たさはなくなっていた。

「俺はちょっとやそっとじゃ倒れない。安心して寄りかかってくれていいんだよ」
 それを証明するように弟くんを抱き寄せる。今度は押し返されることもなかった。
 五年前も経つと体の大きさもずいぶん変わってたけど、その心までは変わらない。結構すぐ泣いちゃう、優しい子のままだ。

 

 

「……っとこんな感じかな。それからもまぁいろいろあったけどもうそろそろ戻らないと。また怒られる」
 あれから三年。いまだに上官からは怒られることはある。でも最初の頃に比べたら減ったほうだ。
「また今度来るから。あ、そうだ。次は弟くんも一緒に連れてこようか。ものすごい仲良しエピソード話しちゃうぞ。お前が羨むぐらいすんごいやつ」

 当然ながら返事はない。そりゃそうだ。だって目の前にあるのは冷たい墓石なんだから。

 端から見たらおかしい奴に見えるかもしれないけど、人がいない時を見計らって来ているので多分大丈夫なはず……万が一通報されたらどうしよう。

「なぁレイジ。弟くんのことは俺がちゃんと守るから。お前の代わりに……なれるか分かんないけど。安心してくれよ」
 死に際には会えなかった彼に誓う。
 不穏な噂があって、その調査に同行していた。数ヶ月、城から離れていた間にレイジが現れて自分がいない間に彼は亡くなった。……結局、俺はまた守れなかった。
 でもそのことにいつまでも悔いているわけにはいかない。レイジをこんな目にあわせた奴を何が何でも見つけ出さねば。このままじゃレイジが浮かばれないし何より俺自身が到底許せない。

「弟くんたち、来週には学校に復帰できるんだって。俺が送り迎えする予定。弟くんの制服姿めっちゃ似合ってたぞ。羨ましいだろ」
 弟くんたちが通うのは俺とレイジが通ってた中等部と一貫の高等部だ。弟くんたちが通ってた初等部もそこに附属するところだったらしいが……中等部は通ってないのでいわゆる外部入学みたいな立場になりそうだ。
 制服も中等部とほとんど同じデザイン。弟くんの姿を見た時、会ったばかりの頃のレイジを思い出して少しグッときてしまったのは内緒だ。

「あの子たちは少しずつでも前に進もうとしてる。俺はそばで見守って、あの子たちが笑って過ごせるよう頑張っていくよ」
 お前ができなかった分……いや、それ以上に。だから何も心配せずに眠っていてくれ。
 あぁ、でも……やっぱりきついなぁ。

 

「じゃあ、またな」
 名残惜しくとも、別れの言葉を口にする。日差しに照らされて少し暑くなってきたところに心地よい冷えた風が吹きぬける。
 少し濡れた目元を拭い「こんな姿、弟くんには見せられないな」と呟きながら帰路についた。

 


結局のところ衛兵くんのお話は第一章と同じくらいの長さになりました。次回、第二章ラストです。