夢うつつの春うさぎ - 3/8

「で、だ。これからどうするか、だが……」
 クルベスは顔の火照りが治まったルイとそれを心配そうに見守るティジを交互に見遣る。そうして深いため息と共に一言。

「なん……っでイレギュラーにイレギュラーを重ねるんだよ……」
 クルベスが頭を抱えてこぼした嘆きにエスタも「それはそう」と頷いた。

「ティジ君ってウサギさんみたいな見た目してるなとは思ってましたけど……だからってマジでウサギさんにならなくても良いじゃないですか」
「そういう問題じゃないだろ。いや、ウサギ……?待てよ、もしかして……」
 エスタの発言に気になる点があったのかクルベスはしばし黙り込む。そして思案すること数分。エスタが「ティジ君、しっぽが付いてるってどんな感じ?」と雑談を興じ始めた時、クルベスはハッと息を呑んだ。

「そういえば聞いたことがある……!どこぞの国では春の訪れを祝う祭りがあって、その祭りのモチーフはウサギだとか……!確か時期もだいたいこの辺りだったはず……そういう事なのか……!?」
「落ち着いてくださいクルベスさん。『そうか、分かったぞ……!』みたいなノリで言ってますけど、その春のお祭りっていうのと、何でティジ君がこうなっちゃったのかって事が全くもって繋がらないです。脈絡なさすぎです」
「そ、そうだな……すまん、気が動転してた」
 エスタに正論を言われたクルベスは「俺はいったい何を……」と首を振る。そんな二人の応酬に「ねぇ」とティジが割って入った。

 

「いまの話……もしかしたら俺がこうなっちゃった事と関係あるかもしれないよ。いちおう関連性はあるわけだし」
「いや、無いぞ。完全に別問題だ」
「で、でも今のところは他に手がかりもないし……ほら!書庫のほうにその春のお祭りについて書いてる本があるかも!それで調べたら何か分かる可能性だってあるかもしれないんじゃないかな……!」
 クルベスは無慈悲に切り捨てるがティジはなおも諦めない。その大きなウサ耳を奮い立たせて食い下がるティジの様子にクルベスは「もしや」と目を鋭くする。

「気になってんだろ。その春の祭りが。それについて知りたくてしょうがないってわけか」
「う……っ」
 クルベスの指摘はものの見事にティジの心理を言い当てたようで、ティジはギクリと肩を揺らした。日頃から好奇心旺盛で、自分の知らない事があれば喜んで調べる知識欲の権化であるティジ。そんな彼はどうやら春のお祭りとやらに興味を示したらしい。自身が大変な状況となっているのにこれにはクルベスも呆れてしまう。

「第一、その格好でうろつくのはなぁ……まず目立つし、他の奴に見られたら十中八九『何があった?』って聞かれるだろ」
「それは……そうかも」
 至極真っ当な意見にティジの表情も曇る。普段のティジは周囲の目をひどく気にして、人の集まるところは長居しないタイプだというのに、好奇心の前にはそれも忘れてしまうらしい。

 クルベスの口から「書庫なら俺たちが調べてくるからティジは部屋で待っててくれ」という言葉が出かかったその時。ティジは妙案が浮かんだとばかりに目を見開いた。

「仮装しているっていうのはどうかな!学校での出し物の練習とか前準備ってことでこういう格好をしているっていうのは!」
「……ティジ、自分でも分かってんだろ?かなり無茶苦茶な事を言ってるって」
 クルベスの呆れた口調にティジも図星だったのか「うぐ……っ」と黙り込む。それと連動して頭上のウサ耳もペショリと力を失くしていた。だいぶ健闘したが、あのクルベスを説き伏せることなどやはり無謀だったのだ。

 

 すっかりしょぼくれてしまったティジと「とりあえず今日は大人しくしとけ」と諭すクルベス。両者の間に重い沈黙が流れる。そんな二人の間に「でもでも!」と明るい声が飛び込んで来た。

「ティジ君の提案も案外いけるんじゃないですか?他のみんなもまさかコレが本物だとは思わないでしょ。そりゃあ間近で見られたら結構苦しいとは思うけど……。例えばパーカーとか着て、それで隠しちゃえばそこまで見えませんし、仮に見えたとしてもさっきティジ君が言ってた『練習』ってやつで返しちゃえばそれで納得してくれますって!」
 エスタの賛同にティジの表情が明るくなる。またそれと共にティジのウサ耳も元気を取り戻したように立ち上がる。忙しなく動くウサ耳を触りたくてウズウズするエスタを横目に、クルベスは観念した様子で息を吐いた。

「そうだな。一日中部屋の中にこもりっぱなしってのも体に悪いし……その方向でいくか」
 ようやくクルベスの了承が得られたことにティジだけでなくエスタもホッと胸を撫で下ろす。
 ひとつ議論が着地した部屋の中、『キュルル……』と腹の虫が鳴く。音の発生源に一同揃って顔を向けると、その発生源――ルイはまたもや顔を赤くして俯いていた。甥っ子の可愛らしい様子にクルベスは小さく笑うと「その前に朝食だな」と告げるのであった。