その日の夕方。書庫での作業に区切りをつけ、クルベスの私室へと場所を移したティジたち一行は膝を突き合わせて進捗会議を開いていた。
クルベスは各自の調査内容と今回の事態との関連性を聞き、そこから原因が推測できないか熟考する。それを邪魔をしないよう、ティジたちはココアを飲みながら静かに待っていた。ちなみにこのココアはクルベスが「夕食前だが今日一日頑張って調べてくれたからな。そのお礼だ」と言って淹れてくれた物であった。
クルベスは難しい顔をして、時折何事か唸りながらしばらく考え込む。やがてグシャリと自身の前髪をかき乱すと共に深いため息を吐いた。
「分からん……まるで解決方法が見出せない。何だってこんな……こんなわけの分からない事態になるっていうんだ」
「すみません。俺がもうちょっとちゃんと調べられたら良かったんですけど……」
肩を落として謝罪するエスタにクルベスは「いや、謝らなくていい」と首を振る。
「お前たちを責めてるわけじゃない。ただ俺自身の無力さに呆れてるだけだ。だがここからどうするか……ティジの検査結果にも全く異常は無かったわけだし……」
「ただウサギさんのお耳としっぽが生えてるだけですもんね」
あっけらかんと言うエスタにクルベスはますます深いため息を吐く。
「それが一番おかしいんだよ。目に見えておかしな物が生えてんのに、どうしてそれ以外は正常なんだって話だ。むしろ小さくてもいいからどこかしら異常があればそこが原因だって考えられるってのに」
そこまで一気に話すとクルベスは「どうにかならないものか」と再び唸る。
「とにかく時間も時間だし今日のところはここまで。続きはまた明日だな。理想を言えば明日でどうにか解決させたいが……どうなることやら」
「明後日は学校がありますもんね。とはいえさすがにこのままってわけにはいかないし……」
学校では規定により帽子やパーカーなどの着用は不可能だ。そうするとこの大きなウサ耳を衆目に晒して過ごすこととなってしまう。そんなことはクルベスはもちろん、ティジ自身も避けたいはずだ。『そのためにも何とかしないと。でも何とかするって言ったって何をどうすればいいんだ?』と頭を悩ませるエスタを傍目にクルベスが口を開く。
「最悪、外科手術で取るって方法もある。だがそうするとしばらく休学することにはなるからそれはあくまで最終手段だな」
「うわっ……それは絶対痛いやつ……」
クルベスの提示した手段にエスタとルイは震え上がり、ティジも思わず自身の耳を押さえた。
「ティジのためにも明日はもっと頑張らないと……」
「それもそうなんだが……その前に。ルイ、お前にはひとつやってもらいたいことがある」
気合いを入れ直すルイにクルベスが体を向けて真っ直ぐと視線を合わせる。クルベスの改まった態度にルイは首を傾げるつつも『ティジのためなら何だって協力するぞ』と意気込む。そんな彼にクルベスは衝撃的な言葉を吐いた。
「今夜はティジと一緒に寝てくれないか」
「っ、う゛、ゲホ……っ!え?なん……なんて?」
クルベスの口から飛び出したとんでもない文言にルイは思わず咽せる。そんな彼にクルベスは再度重ねて告げた。
「ティジと、一緒に、寝てくれ。頼む」
「俺の聞き間違いじゃなかった……え、何でです?クルベスさん、とうとうご乱心になられたんです?」
ルイと揃って困惑するエスタにクルベスは「俺はいたって正常だ」と呆れた様子で返す。
「再現性だ」
「さいげんせい……?」
クルベスの呟きをエスタが復唱する。一様に見つめてくるエスタたちにクルベスは更なる説明を始める。ここまで来たらクルベスだって藁にもすがる思いなのだ。
「昨日までは何ともなかった。で、昨晩ティジはルイと一緒に寝て今朝起きたらそうなってたわけだ。そうだな?」
「まぁ……うん。そうだけど」
今朝説明した通りだ、とルイは頷く。
「それならそれと同じ状況を起こせば今度は逆のこと……ティジの姿が戻るんじゃないかと考えた。天気まで再現するのは無理があるが、それ以外の状況をなぞることでどうにかならないか、と」
「いや……それはいくら何でも無理があるって。そんな訳の分からない方法で解決したら苦労しないし」
クルベスらしくない、説得性に欠けた不確実な方法だ。それにルイも反論するが、クルベスはそんなルイの肩を掴んで深く頭を下げた。
「だが今はそんな訳の分からない状況なんだよ……!頼むから……!ひとつの可能性を潰すと思って、引き受けてくれ……!」
お願いだから、とクルベスは切実に訴えかける。その必死の頼み込みにルイは『まぁ、俺に出来る事なんて他に無いし……クルベスの言うことも一理ある……のか?』と疑問を抱きつつも了承することとした。