夜。小さなティジは父ジャルアの寝室に訪れていた。このような奇怪な状態のティジを一人にさせるのは不安だから、とジャルアが一緒に寝ることを志願したからである。
ティジはニコニコと嬉しそうにしている。ちなみにティジの本日の寝巻きは大人用のシャツ一枚である。(シャツはクルベスの物を借りた)
なぜこのような格好をしているかというと、眠っている間に元の姿に戻る可能性を考えてのことだ。かなり大きめのサイズなので仮に戻ったとしてもある程度は隠れるはず。
「お父さんと一緒に寝るの久しぶりだ!」
ベッドに入らず「今日はずっと起きていたいな」と楽しげに笑う。ティジのことだから有言実行しかねないので「夜更かししたら背が伸びないぞ」とだけ言っておく。
無邪気に笑う小さな姿がふと過去に見た姿と重なった。
「ティルジア。寝る前に少しお話したいんだけど……いいかな」
「うん、いいよ!ぼくもお父さんとお話したいこといっぱいある!」
ジャルアは我が子の細い肩に手を置き、あどけない瞳を見据えた。
「一つだけ教えてほしい。……ティルジアはお父さんやみんなに内緒にしていることって無いか?」
『この間じぃじと本を読んだんだけど』と言いかけていたティジだったが、ジャルアの問いかけに「え」と戸惑いを見せた。
「お父さんはティルジアのことが心配なんだ。俺だけじゃない。お母さんやじぃじ、クルベスも……みんな、ティルジアのことを大切に思ってる。自分たちの知らないところで危ない目に遭ったらどうしようって心配してるんだ。なぁ、ティルジア。内緒にしてること……本当はみんなに言わなきゃいけないことって無いか?」
この子の心に語り掛けるように言葉を紡ぐ。するとティジはおずおずと手元をいじりながら口を開いた。
「……みんなに内緒にしてること……ある」
「怒ったりしないから教えてほしいな」
この子が少しでも話しやすいようにジャルアは努めてやわらかな表情を見せる。
「その……お外で……お父さんとかクーさんに内緒で……お外の人とお話してる」
ティジの決死の告白にジャルアは「そうだったんだ」と相槌を打つ。別に驚きはしない。……とっくの昔に知っていたのだから。
「本当は良くないことだって分かってる……でもね、あの人は――リエさんは悪い人じゃないよ!だって、ぼくのこと『変じゃない』って……『好きだよ』って言ってくれたもん!他の人と違ってリエさんは……ぼくの目も、この頭も『綺麗だ』って言ってくれた……だからリエさんは良い人だよ!」
ティジの心から溢れ出す言葉とともに感情が高ぶってきたのか涙もこぼれ落ちていく。くしゃりと髪をかき乱しながら「好きって言ってくれたもん……っ」と涙を流す。
この子は自身の容姿に極度のコンプレックスを抱いている。それはこの6歳の頃から変わらない。
「お父さんたちにもいつか紹介したいなって思ってるんだ……リエさんと会ったらきっと仲良くなれるよ……あんなに優しい人なんだから……」
だからどうか、と強く手を握り合わせて懇願するその姿にジャルアは言葉が詰まらせた。
あの時もこうしてちゃんと話をしていれば良かったのだろうか。そうしていれば、もしかしたら結果はもっと違っていて……この子の望む未来になっていたのかもしれない。
「話してくれてありがとう。ティルジアの想い、ちゃんと伝わったよ。……ティルジアはその人のこと、そんなに好きなんだね」
「うん!大好き!」
ティジはパァッと表情を明るくして大きく頷く。
それからもティジはその『大好きな人』がどんな人か、何を話したかなどを眠りにつくまで話し続けた。