chapter.3

31.熾火-4

 その夜。医務室のベッドの中でティジは寝苦しそうに唸った。 隣りのベッドではエスタが眠っている。(ちなみにルイのほうはというとクルベスが心配して『また一緒に寝るか』と誘っていたが丁重にお断りしていた) 時折「もう勘弁して……」と寝言を言って…

30.熾火-3

 ルイと医務室前で別れたエスタ。あれよあれよという間にある部屋にポイっと投げ込まれた。「こんな人気の無い場所に連れ込むなんて何するつもりですか!何されちゃうんですか!」「説教」「上官ノリ悪いですね!!」 喚くエスタを蔑ろにして上官は質素な木…

29.熾火-2

「上官の鬼ぃいい!!良いじゃないですか!疲れたり運動した後には甘い物って言うじゃないですか!!」 王宮の通路にエスタの声が響き渡る。彼は自身の上司である警備の責任者――上官に首根っこを掴まれて引きずられていた。「全身ボロッボロの奴が何言って…

28.熾火-1

「……めん……まもれなくて……ほんとうにごめん……っ」 お父さんの声…?手、あったかい……ぼくは優しく握ってくれるお父さんの手が好きだよ。 でも、なんでお父さんが「ごめんね」って言ってるの……?なんでお父さんが悲しそうな顔してるの?どこか痛…

27.薄藤と墨-6

「八年前、何故あいつらを襲った」 湧き上がる怒りと憎悪でクルベスの手が震える。叶うのならば今すぐこの首をへし折ってやりたい。そんなのは自己満足にしかならないことは分かってる。 鬼気迫る表情のクルベスにニィスは少し考える素振りを見せた。「八年…

26.薄藤と墨-5

 気を失ったティジを見下ろすニィス。力の抜けた腕を掴んで落としてみるが特に反応は見られない。「ちょっと遊びすぎちゃったか」 ティジの顔色は悪く、呼吸も浅い。少し悪戯心が働き、首に手をかけて軽く絞めてみるが呻き声を洩らすだけ。 この調子だとし…

25.薄藤と墨-4

 軽快な足取りでティジの元へと戻るニィス。しかしそこはもぬけの殻。 されどもニィスはそれに気分を害した様子もなく、外された拘束具を指先で撫でて目を細めた。 こんな簡単な鍵、物質を操る魔術を使えば容易く解錠できる。こちらの狙い通りに動いてくれ…

24.薄藤と墨-3

 クルベスと二手に分かれて捜索することになったエスタ。人の声がしたためそちらに駆けていくと、そこにはルイに覆い被さる男と、眼前にナイフの切先が差し迫っていたルイがいて。 その姿を目にしたエスタは気がついたら地面を蹴り出していて、その拳を目の…

23.薄藤と墨-2

「お、こっちもお目覚めか。それに随分と抵抗したみたいだね」 ニィスはブレナ・キートンの手によって床にうつ伏せに押さえつけられているルイを見下ろす。無理に押さえつけられているため、ルイの頬や手には無数の擦り傷が付いていた。「それ以上暴れないほ…

22.薄藤と墨-1

「――すごい、この計測器がぶっ壊れたみたいな数値!同じだ!本当にいたんだ!」 鉛のように重いティジの頭に、高揚し歓喜にわく声が入る。まぶたを開けるとそこは全く見知らぬ部屋で。寂れた部屋に置かれたこれまた大きな椅子に縛り付けられていることに気…

21.夕暮れ時-4

「クルベスさん。こうしてただ待っているのも退屈ですし、どうせなら校内を案内しましょうか。俺ここの卒業生なんで問題なく入れると思いますよ」 正門前でティジたちを待つエスタは隣に並び立つクルベスに顔を向ける。今日は普段と違ってクルベスの車で帰る…

20.夕暮れ時-3

「それにしても良かったのかい?もう帰るところだったんじゃ……」「いえ、その……先生と話がしたくて。だから先生と会えて丁度良かったです」 ルイはブレナ教師が抱えていた荷物運びを手伝うという名目で彼との会話に漕ぎつけた。 向かう先は彼の担当教科…