chapter.4

28.から風混じりの寸暇-3

「そういえばティジ。学園祭の時に聞きそびれたことについて、結局何だったんだ。もし何か悩んでいることがあるなら聞かせてくれないか」 図書館から帰ってくるなりクルベスに呼び出され、クルベスの私室に足を運んだティジ。ソファに座るよう勧められて腰を…

27.から風混じりの寸暇-2

「二人ともおかえり……」 学校の正門から出たティジとルイ。そんな二人を待っていたエスタは覇気のない声で二人を迎える。 日頃は元気が有り余っているエスタが何故このような様子なのか。それは今日ティジたちが学校に足を運んだ理由と関わっている。&n…

26.から風混じりの寸暇-1

 王宮の医務室。先日、ブレナ・キートンと対峙した際に負った傷の経過をみせていたエスタは何の気無しに口を開いた。「こうしてみるとクルベスさんってお医者さんなんですね」「あぁ、医者だぞ。何を今更」 手や指の動作に問題はないか確認するクルベス。そ…

25.萌芽-6

「俺は認められない」 夜半。国王の私室にてクルベスからの報告を受けたジャルアは滅多に見せることのない気迫のある表情で言い放った。 クルベスから今回の一件を聞かされた時、ジャルアは手にしていた万年筆を落とした。 王位を継承した際に与えられる、…

24.萌芽-5

 その日の夜。ルイは自室でガックリと肩を落としていた。ティジへの気持ちが意図しない形で本人に伝わらなかったことに喜ぶべきだろうが、とてもそんな気分にはなれない。 あの反応だと完全に脈ナシだ。『好き』と言われて一瞬でも舞い上がった自分に嫌悪感…

23.萌芽-4

 頃合いを見てクルベスが私室に戻るとルイは膝を抱えて丸まっている状態になっていた。部屋の主が戻ってきたことに気づいたルイは大変申し訳なさそうに「ご迷惑を……おかけしました……」と詫びる。「……どうしよう」 目を潤ませたルイは憂いの表情で嘆く…

22.萌芽-3

 ――遡ること30分ほど前。 エスタに事情を話したルイは自室で頭を抱えていた。 クルベスやエスタさんに心配させて……ティジを不安にさせてしまった。自分の行動でみんなに迷惑をかけている。 いっそのこと、この気持ちは単なる思い込みだと決めつけら…

21.萌芽-2

 クルベスさんから『ルイのこと、よろしく頼む』と頼まれた俺――エスタはそのまままっすぐと弟くんの部屋へと向かった。 弟くんの部屋に腰を据えてまっすぐと見つめる。気まずさからか身の置き所が無い様子の弟くんに俺は優しい声で問いかけた。 …

20.萌芽-1

 朝、小鳥のさえずりが外から聞こえる。窓の外には八月の晴れ晴れとした空が広がっている。爽やかな、いたって何の問題もない朝。 ――ある一点をのぞけば。「うぁああ……もう何なんだよぉ……っ」 先ほどまで見ていた夢。それによってもたらされた自身の…

19.お出かけ-3

 図書館に足を運んだティジたち一行。 やはり好きな物に囲まれていると心が落ち着く。今日訪れた場所の中で一番のびのびと過ごせている気がするな、とティジは顔を綻ばせた。 高いところにある本はクルベスに取ってもらい、ティジが抱えている本の総重量は…

18.お出かけ-2

 久しぶりの外出。平日だから人でごった返しているわけではないがそれでもほどほどに人はいる。 手を離したら迷子になってしまいそうだ、と繋いでいる手を握りなおしたルイにクルベスが問いかけた。「ルイは行きたい場所はあるか?ルイの誕生日、ちゃんと祝…

17.お出かけ-1

 国王の執務室。そこでジャルアとクルベスは膨大な量の書類の内容を確認していた。 それは来月からティジとルイが通う初等部に提出する書類であった。 ルイたち一家が何者かに襲撃されてから約四ヶ月。 ルイもすっかりこの城に慣れて落ち着きを見せている…