chapter.5

  • 01.木の芽時-1

     四月。うららかな春の陽気に当てられて自然と気分も明るくなる季節。年度も変わり、ティジとルイも学年が一つ上がり二年生となった心機一転の春。 そんな雰囲気とは裏腹にルイは王宮の通路を怒り心頭で闊歩していた。「あいつ、今日も懲りずにしつこく誘っ…

  • 02.木の芽時-2

    「いやー、まさか本当に応じてくれるとは思わなかったよ」 学校内の食堂。その一角にあるテーブル席でシンはにこやかに言う。それに対してルイは眉間にシワを寄せ、不快感をあらわにした。「元はと言えばお前がしつこく誘ってきたんだろうが」「冷たいなぁ。…

  • 03.木の芽時-3

     ティジが体調不良を訴えた翌朝。学校の正門前ではエスタがルイの手を取ってしきりに言葉を掛けていた。「本当に大丈夫?やっぱり俺もついて行こうか?俺ここの卒業生だから中には入れるし、そのほうが絶対安全だよ……」「そこまでしてもらわなくても大丈夫…

  • 04.木の芽時-4

     昼時。教室を足早に抜け出したルイはある場所へと向かった。目指す先は校舎から出て少々歩いたところ、少し開けたスペースにベンチがあるだけの学園内でも穴場の休憩所だ。 昼食は普段と同じように昼食を持たされているので脇道に逸れることなく足を進めて…

  • 05.木の芽時-5

     長い長い一日が終わり、誰かに呼び止められる前に足早に教室から出るルイ。背後や周囲に警戒しながらエスタが待つ正門前へと急ぐ。 下校中の生徒が歩いている正門前、さほど苦労する事なく探し人を見つけることが出来た。その探し人――エスタは硬い表情で…

  • 06.境目-1

     医務室の中。ソファに浅く座っているエスタの手にはつい先ほど通話を終えた携帯電話が握られている。先ほどから何度もため息を吐いている彼はまばたきの回数も平常時よりも格段に多く『いま自分は落ち着きがありません』と全身で表現していた。 ここ数日の…

  • 07.境目-2

     先日から体調を崩していたティジ。ここ数日は学校を休んでしまっていた彼だが、今ではすっかり熱も下がり、さらに言えば昼頃にはクルベスからも「今日一日だけ様子を見て、問題無ければ学校に復帰できるな」とお墨付きをいただいた。 クルベスの言葉に思わ…

  • 08.境目-3

     今日も今日とて学校を終えて城に帰宅したルイとエスタは帰ってきたことを報告するため、クルベスの元へと向かっていた。 その道すがら、どこかへ向かう途中だったのかトレイを持ったクルベスと偶然出会う。トレイには水差しとコップ、それと錠剤のシートが…

  • 09.境目-4

     クルベスに連れ出されたルイ。すぐ近くのクルベスの私室で話をするのかと思っていたが、何故か元来た道を戻らされる。 その道中、息を切らしたエスタと鉢合わせた。「なんか、ティジ君が運ばれたって……何かあったんですか……?」 エスタの口振りから推…

  • 10.境目-5

    「俺はティジの様子を見に戻ろうかと思ってる。ルイ、お前はどうする?」 話が終わった後もしばし放心していたルイの耳にクルベスの声が入る。その声にルイはうまく働かない頭を無理やり起こした。「あ……俺は……おれ……は……」 一緒に行く、という言葉…

  • 11.境目-6

     そこは自分以外誰もいない空間。 どこまでも続く広いその真っ白な空間には、至るところに箱やボロ切れのような袋が打ち捨てられていて。箱はひび割れ、袋は縫い目から引き裂かれており、その中から『黒い泥のような物』があふれ出していた。  …

  • 12.境目-7

     昼下がり。学園内のとある一角――もうすっかり馴染みの場所となった休憩スペース。そのベンチに座っているルイはボーッと手元を見つめていた。視線の先には城の料理長から貰った本日の昼食。 昼休みが始まってからもう三十分ほど経過している。だが食欲が…

  • 13.境目-8

    「まぁ大体何があったかは分かった。それにしても……まさかそっちも同じ物を持ってたとは」 クルベスから連絡を受け、城に駆けつけたエディ。クルベスの私室で落ち合った彼はクルベスから事の経緯を聞くとため息まじりに呟いた。その口振りから察するに、リ…

  • 14.境目-9

     ルイはベッドに横たわるティジを見つめる。雷が鳴る日のように呻くこともなく、まるで死んでいるかのように眠るその人。毛布が微かに上下していることから呼吸をしているのは確かだが、それ以外の反応が見られないことにひどく心がざわめいた。 ティジはい…

  • 15.淡彩色の記録-1

     目を覚ましたら知らない場所だった。でも知らない場所に連れて来られたのではなく、自分が記憶喪失になっているのだと知ったのはそれからすぐの事。それを教えてくれた眼鏡を掛けた男性は自分にいくつか質問をすると慌ただしく部屋から出ていってしまった。…

  • 16.淡彩色の記録-2

     結局、自分が記憶喪失だと知ったその日の夜はそのまま医務室で眠ることとなった。クルベスさんから「こんな状態で一人にさせるのは心配だから」と言われたからだ。 それに加えて「しばらくの間は一人で行動せずに必ず誰かと一緒にいるように」と言いつけら…

  • 17.淡彩色の記録-3

     ルイの学校の件について、日中はクルベスさんも忙しそうにしていたためもう少し落ち着いてから聞いて見ることになった。 落ち着いてからっていつ頃だろう?そういえば記憶を失くす前の俺はクルベスさんとどれぐらい親しかったのかな。 実際のところ、あの…

  • 18.淡彩色の記録-4

    「学校の件な、すまないがお前は学校に行ってくれ」 クルベスは彼の私室にルイを押し込むと開口一番に言い放った。ルイはここに辿り着くまでの間『どのように話せば自分の意見を分かってもらえるか』と悶々と考えていたのだが、自分の意見を話す前に言い切ら…

  • 19.淡彩色の記録-5

    「――……っ」 微睡んだ意識を覚醒させる。目を開けて最初に飛び込んで来た景色は白。どこまでも、どこまでも真っ白な世界。ここはどこだろう。 半身を起こし、周囲を見渡しながら過去の記憶をさかのぼる。最後に覚えているのは……エスタさんに「おやすみ…

  • 20.淡彩色の記録-6

     ルイが学校に復帰する事が決定した。昨晩の話し合いで今後の流れも決まったらしく、話はトントン拍子で進んでいき、翌日にはルイはまた学校に舞い戻ることとなった。「さて、二人を見送ったことだし。ティジ君、これからどうする?何がしたい?」 登校する…

  • 21.淡彩色の記録-7

     今朝方、ルイはティジの希望通り、学校へと登校した。なおその際エスタには「弟くん、ティジ君のことは俺がしっかり見ておくから安心して……!クルベスさん、弟くんを頼みます!なにとぞ、どうか……弟くんの事、よろしくお願いします……!」とまるで今生…

  • 22.淡彩色の記録-8

     小さく息を吐き、いつの間にか閉じてしまっていた目を開ける。 何度かまばたきを繰り返し、周囲の不可思議な光景――真っ白な景色を確認してようやく自分の状況を理解する。 ここはおそらく夢の中だ。あの不思議な夢の続き。それを証明する物はどこにも無…

  • 23.継ぎ合わせのページ-1

     あれから数日掛けて城の探索を終えた。結局この数日の間で記憶は戻らず、あの声の主を見つけ出すことも出来なかった。 それともう一つ。あれ以降、あの不思議な夢を見なくなった。 だからといって何も行動せずにいても状況が変わる事はないので、あの声が…

  • 24.継ぎ合わせのページ-2

     ルイの送迎を終えて城に帰還したクルベス。自分の仕事場でもある医務室の扉を開けるとエスタとティジが「おかえりなさい」と出迎えられた。「ただいま。悪い、もしかして待たせたか」「いえいえ、今さっきティジ君からのインタビューが終わったところなんで…

  • 25.継ぎ合わせのページ-3

     医務室の中、カチコチと秒針が時を刻む音が響く。部屋の中心でティジはクルベスに様々な質問をし、そしてその返答を「ふむふむ」とノートに書き込んでいた。「それじゃあクルベスさんと父さんは従兄弟で俺とルイはー……はとこ?」「あぁ、こう言っちゃ何だ…

  • 26.継ぎ合わせのページ-4

     ティジたちが通う学園の正門前。本日の授業も終わり、友人と談笑しながら歩く者や、何か予定でもあるのか急ぎ足で家路につく学生たちであふれかえっている中。彼らの往来を邪魔してしまわないようにと、少し外れた場所にクルベス・ミリエ・ライアは佇んでい…

  • 27.継ぎ合わせのページ-5

     クルベスがルイを迎えに行った後。しばらくしてクルベスから「もうすぐ帰る」という旨の連絡を受けたエスタは「折角だから弟くんたちを出迎えちゃおっか」とティジに提案する。その提案に二つ返事で頷いたティジはエスタに連れられて王宮内の通路を歩いてい…