chapter.3

  • chapter.3 登場人物

    ◆サクラ・ミア・レリリアン(サクラ) ティジの双子の妹。 普段は他所の国のお淑やかな感じの学校に通っている(寮生活を満喫中) 母親似の柔らかな笑みと気品を帯びた雰囲気。そのたおやかな立ち振舞いに初対面の者は彼女に親しみと淑やかさを覚えるだろ…

  • 01.喧騒-1

     授業を終えた後も喧騒の絶えない教室。その一角でティジは一人、物思いに更けていた。 復学して一ヶ月と少しが経ったが周りの目はやはりさほど変わらない。思い返すと初等部に通っていた頃もそうだった。この嫌でも目立つ容姿は人目を引いてしまう。 割り…

  • 02.喧騒-2

    「ルイ、ちょっと待って……!」 ティジは自分の手を引き、ズンズンと先を進む背に呼び掛ける。機嫌が悪いのは火を見るより明らかだ。ここまで不機嫌になっているルイは初めて見た。「俺は平気だから。別に変なこと聞かれたりしてないし……」『自身の出自に…

  • 03.喧騒-3

    「二人ともおかえり。学校はどうだった?」 正門前。懐古に浸りながら待っていたエスタは早足で歩いてきたルイたちに声をかける。「別に。いつも通りですけど」 ルイは自身の発言とは裏腹に刺々しい口調で返す。何かあったことは明白だ。その証拠にティジも…

  • 04.喧騒-4

     その夜、夕食を終えたティジはジャルアの私室に訪れていた。「どうだ。学校はもう慣れたか」「うん、もうだいぶ慣れたよ。でもルイに『絶対一人で行動するな』って言われちゃうかな」 ジャルアの問いかけにティジは少し困ったように笑う。 だがしかしルイ…

  • 05.喧騒-5

     新学期が始まり、最初に行われる学力試験。ルイはその結果――もとい採点された答案と、隣に座るティジの答案を見比べる。 自身も一応平均点以上の点数は取れているがティジと比べるとやはり霞んでしまう。おそらく学年首位にあたるであろう優秀な結果に舌…

  • 06.喧騒-6

    「弟くん、ちょっと落ち着こう。ほら、価値観が違う人って世の中たくさんいるから。ちょ、弟くん速いって!え、競歩の練習?もしかして運動系のサークルから誘われてるのかなぁ!?」 今日も今日とて怒り猛る心情を如実に表した歩調のルイ。そんな彼をエスタ…

  • 07.喧騒-7

     食堂にて夕食を終えたエスタはクルベスの私室へと足を運ぶ。勤務時間はとうに終わっているため、完全に私用で出向いていた。 自分の寝床で過ごすよりも彼の元でのんべんだらりと駄弁るほうが好きなのだ。迂闊に彼の弟家族ないしはルイの昔話を聞こうものな…

  • 08.泥濘の夢

     夜半。先刻まで賑やかだった国王の寝室は静寂に包まれていた。ベッドの中、毛布にくるまりながらジャルアは子どもたちとの幸福な時間を振り返っていた。 ようやく気兼ねなく子どもたちと会うことができ、家族の思い出を語らっていた。これ以上にないほどの…

  • 09.多事多端-1

    「――ィジ、ティジ」「え?……あ、どうしたのルイ」 昼時の教室。ティジは肩を叩かれ、ようやくルイに呼ばれていることに気付いた。「昼食、今日はどこで食べる……体調悪いなら早退するか?」「いや、どこも悪くないよ。ちょっとボーッとしちゃっただけ」…

  • 10.多事多端-2

     放課後。夕暮れ時の廊下を歩くティジ。その足取りは速く、焦りを感じられた。 本日の授業も終わり、開催が近づいてきた学園祭の準備をおこなっていたところ『あの面倒見の良い教師にお礼を言わねば』と思い立った。 その姿を目で探すとちょうどブレナ教師…

  • 11.多事多端-3

     車中。大層ご立腹のルイはクルベスの運転に揺られながら後部座席でしかめっ面を見せていた。 体調不良となったためご家族へ連絡、となるとティジたちの場合はクルベスへと連絡がいく。年齢差の観点から考えて不自然ではないことに加え、常日頃から二人の面…

  • 12.多事多端-4

     頃合いを見て医務室に顔を出したエスタ。そこではいたく反省した様子のティジと刺々しい空気をまとったクルベス、状況説明のために同行していたルイがいた。 倒れた際に怪我を負っていないか念入りに確認されるティジ。袖を捲り、腕の内側まで目を通すクル…

  • 13.学び舎の催事-1

     サクラに暫しの別れを告げ、着々と学園祭の準備を進めていく。準備期間中、ティジが勝手に行動して迷子になってしまわないようルイは片時も側を離れなかった(流石に用を足す時は中まで同行することは無かったものの、無事に戻ってくるかひどく心配した様子…

  • 14.学び舎の催事-2

    「ルイ、えっと……」 学園祭が始まり、慌ただしい午前が終わって休憩に入ったティジは恐る恐る声を掛けた。 予備のテーブルを持って戻った時には当然ながらルイもすでにボタンの糸処理は終わっていた。シンと共に戻って来たのを目にしたルイは問い詰めはし…

  • 15.学び舎の催事-3

     エスタとクルベスは厨房の手伝いへと向かったティジたちを送り出し、その足でティジたちが所属する学級の企画――喫茶店に入る。昼時を過ぎたためか客足も落ち着いており、待ち時間を要することなく入店できた。 昼食はティジたちと学園内を巡った際に色々…

  • 16.学び舎の催事-4

     午後の手伝いも終わり、再度合流したティジたち。各所の模擬店では『完売』の文言が見受けられ、学園祭も徐々に終わりが近づいていることを実感させられる。 廊下を適当に歩きながら「次はどこ行く?」や「講堂で行われている演奏を見に行ってみるか」など…

  • 17.学び舎の催事-5

    「あの二人、大丈夫かな……」 迷路の外でティジとエスタを待つルイは心配そうにひとりごちる。ティジの迷子癖にほとほと困らされているルイとしては不安でしかない。気を紛らわせようとエスタが買ってくれたクマのキーホルダーを握る。 そんなルイの頭を無…

  • 18.夕暮れ時-1

     学園祭も無事終了し、クルベスたちとはまた帰りに待ち合わせをして一旦別れたティジとルイ。来場者もいなくなった学舎では在校生が時折ふざけたりしながら後片付けを進めていく。 使用した教室の清掃、食器や調理器具など借りていた備品の数量に変化はない…

  • 19.夕暮れ時-2

     互いに誤解していただけだと知り、ホッとしたのも束の間。ティジとルイは『そういえば後片付けの途中だった』と気づく。「急いで戻らないと。多分なかなか戻らないって思われてる」 人目もないのでルイは躊躇することなくティジの手を取り、慌ただしい足取…

  • 20.夕暮れ時-3

    「それにしても良かったのかい?もう帰るところだったんじゃ……」「いえ、その……先生と話がしたくて。だから先生と会えて丁度良かったです」 ルイはブレナ教師が抱えていた荷物運びを手伝うという名目で彼との会話に漕ぎつけた。 向かう先は彼の担当教科…

  • 21.夕暮れ時-4

    「クルベスさん。こうしてただ待っているのも退屈ですし、どうせなら校内を案内しましょうか。俺ここの卒業生なんで問題なく入れると思いますよ」 正門前でティジたちを待つエスタは隣に並び立つクルベスに顔を向ける。今日は普段と違ってクルベスの車で帰る…

  • 22.薄藤と墨-1

    「――すごい、この計測器がぶっ壊れたみたいな数値!同じだ!本当にいたんだ!」 鉛のように重いティジの頭に、高揚し歓喜にわく声が入る。まぶたを開けるとそこは全く見知らぬ部屋で。寂れた部屋に置かれたこれまた大きな椅子に縛り付けられていることに気…

  • 23.薄藤と墨-2

    「お、こっちもお目覚めか。それに随分と抵抗したみたいだね」 ニィスはブレナ・キートンの手によって床にうつ伏せに押さえつけられているルイを見下ろす。無理に押さえつけられているため、ルイの頬や手には無数の擦り傷が付いていた。「それ以上暴れないほ…

  • 24.薄藤と墨-3

     クルベスと二手に分かれて捜索することになったエスタ。人の声がしたためそちらに駆けていくと、そこにはルイに覆い被さる男と、眼前にナイフの切先が差し迫っていたルイがいて。 その姿を目にしたエスタは気がついたら地面を蹴り出していて、その拳を目の…

  • 25.薄藤と墨-4

     軽快な足取りでティジの元へと戻るニィス。しかしそこはもぬけの殻。 されどもニィスはそれに気分を害した様子もなく、外された拘束具を指先で撫でて目を細めた。 こんな簡単な鍵、物質を操る魔術を使えば容易く解錠できる。こちらの狙い通りに動いてくれ…

  • 26.薄藤と墨-5

     気を失ったティジを見下ろすニィス。力の抜けた腕を掴んで落としてみるが特に反応は見られない。「ちょっと遊びすぎちゃったか」 ティジの顔色は悪く、呼吸も浅い。少し悪戯心が働き、首に手をかけて軽く絞めてみるが呻き声を洩らすだけ。 この調子だとし…

  • 27.薄藤と墨-6

    「八年前、何故あいつらを襲った」 湧き上がる怒りと憎悪でクルベスの手が震える。叶うのならば今すぐこの首をへし折ってやりたい。そんなのは自己満足にしかならないことは分かってる。 鬼気迫る表情のクルベスにニィスは少し考える素振りを見せた。「八年…

  • 28.熾火-1

    「……めん……まもれなくて……ほんとうにごめん……っ」 お父さんの声…?手、あったかい……ぼくは優しく握ってくれるお父さんの手が好きだよ。 でも、なんでお父さんが「ごめんね」って言ってるの……?なんでお父さんが悲しそうな顔してるの?どこか痛…

  • 29.熾火-2

    「上官の鬼ぃいい!!良いじゃないですか!疲れたり運動した後には甘い物って言うじゃないですか!!」 王宮の通路にエスタの声が響き渡る。彼は自身の上司である警備の責任者――上官に首根っこを掴まれて引きずられていた。「全身ボロッボロの奴が何言って…

  • 30.熾火-3

     ルイと医務室前で別れたエスタ。あれよあれよという間にある部屋にポイっと投げ込まれた。「こんな人気の無い場所に連れ込むなんて何するつもりですか!何されちゃうんですか!」「説教」「上官ノリ悪いですね!!」 喚くエスタを蔑ろにして上官は質素な木…

  • 31.熾火-4

     その夜。医務室のベッドの中でティジは寝苦しそうに唸った。 隣りのベッドではエスタが眠っている。(ちなみにルイのほうはというとクルベスが心配して『また一緒に寝るか』と誘っていたが丁重にお断りしていた) 時折「もう勘弁して……」と寝言を言って…